Made
in Hawaii < Taro / Poi >
By
Yurie Sakakibara (East West Journal)
榊原百合惠
タロ芋は里芋の一種で、中国では約2000年前から耕作されている。ハワイには西暦500年頃、マルケサス諸島からカヌーに乗って来た最初の移住者が持
ち込み耕作を始めたと言われている。ハワイ王朝時代から、タロ芋を蒸してすり潰した糊状のポイが、ハワイアンの主食となった。今でもポイは、ハワイ伝統
食の一つで、ルアウには欠かせない。
ハワイ州の1993年のタロ芋生産は、600万ポンドだったが、2005年には400万ポンドに減った。州農業局では、スクミリンゴガイ(英語の通称は
Apple
Snail)というタロ芋の害虫や病気の被害が増え、畑や用水の借地権がからんで作付け面積が減っている上、重労働のタロ芋耕作離れが原因と説明してい
る。
タロ芋は、ハワイ文化に於いて重要な作物で、ハワイの伝説では、タロ芋は、空と地の神様から生まれた長男(人は次男)であり、神様の贈物でもある。ま
た、タロ芋には、オハ(子芋)が出来ることから、オハナ(全ての子芋・家族・親戚)と密接な作物だと言われている。
そんなハワイアンにとって心髄とも言えるタロ芋を、ハワイ島ワイピオ渓谷で四代に亘り耕作し、ポイを作っているモック・チュウ家を訪ねた。
■モック・チュウ家
ハワイ島の北東部にあるワイピオ渓谷は、主にタロ芋が耕作されている。現在、約20軒の農家が州の約15%のタロ芋をこの谷で生産している。
モック・チュウ家では、四代に亘りワイピオ渓谷モクワイ地区の23エーカーの土地をビショップ博物館から借りてタロ芋を耕作している。
現在、モック・チュウ家では、三代目のジェイソンさんと奥さんのアルバータさん、二人の息子で四代目のカラエさんと、カラエさんの奥さんのカナニさんの
四人で、タロ芋耕作とポイ生産をしている。
ジェイソンさんは、ハワイアン、中国人、日本人の血を引くアメリカ人。アルバータさんは、ポルトガル系アメリカ人。
モック・チュウ家では、タロ芋耕作やポイ生産は、四代続く家業で、先祖から受け継いだ文化的遺産と考えている。
ジェイソンさんは、ハマクア製糖工場でトラック運転手・溶接工として20年以上働いていたが、工場閉鎖と共に失業した。それまでも週末にタロ芋耕作をし
ていたが、失業を機に本格的にポイ生産を始めた。
四代目のカラエさんは、高校卒業後、空軍に志願するつもりでいたが、膝の怪我を理由に断られたので、ワシントン州の航空学校に3年通った。
ハワイ島カウ出身のカナニさんは、ハワイアン、ドイツ人、中国人、チェロキー・インディアンの血を引くアメリカ人。
カナニさんも、同時期にその航空学校に通っており、そこでカラエさんと出会い、結婚して娘が生まれた。二人は、同じ航空会社に就職していたが、2001
年の米国同時多発テロ事件の後、会社の経営が悪化して、解雇される人が増え、小さな子供を抱える二人の生活は厳しくなった。
そんな時、両親のジェイソンさんとアルバータさんから、ハワイに戻って来て、ポイ生産の共同経営者にならないかと誘われ、ハワイに戻ることにした。
カラエさんには、ホテルで働く姉が一人いるが、タロ芋耕作やポイ生産に興味を示さなかったので、後を継ぐのはカラエさん夫婦しかいなかった。
当時、三代目夫婦は、タロ芋畑があったにもかかわらず、畑仕事をする時間が無く、他の農家からタロ芋を買ってポイを作っていた。息子夫婦が加われば、タ
ロ芋畑の敷地面積を広げてビジネスを拡張出来ると見込んだ。今年は、四代目夫婦が帰省して5年目になる。
■タロ耕作
タロ芋には、大きく分けて水田で育つものと、畑で育つものの二種類があるが、ハワイでは主に水田でタロ芋を耕作している。
ワイピオ渓谷には沼地が多いため、水田耕作のタロ芋の育成に適しており、古代からタロ芋畑があった。
しかし、タロ芋は、植え付け、草取り、収穫などを水田の中で、昔ながらの手作業でしないといけないため、耕作者が年々減っている。
カラエさんは、「今の若い人は、農業、特に重労働のタロ芋耕作を敬遠しがちです。病気や害虫も増え、効率も悪くなっていますから、益々やりたがりません。
でも、タロ芋やポイは、ウチの家族だけでなく、ハワイの人にとって、文化遺産的な作物ですから、私たち夫婦が代々の伝統を継承しないといけないと思いま
した。
ワイピオ渓谷には、まだタロ芋畑になりうる土地が沢山残っていますが・・若い人は誰もやりたがりません。四代目のタロ芋農家は、多分ハワイでも珍しいと
思います」という。
■ワイピオ渓谷
ワイピオ渓谷には、日用品を売る店がないので、ここに定住している人はいない。殆どの人が、ホノカアなどの近隣の町に住み、週日は他の仕事をし、副業と
してタロ芋耕作をしているため、農作業をする時だけ谷に降りる生活をしている。
モック・チュウ家では、三代目、四代目ともホノカアに家があり、ワイピオ渓谷の畑まで通っている。畑には小屋があり、週末などに数日間続けて畑仕事をす
る時は、小屋に泊まることにしている。
谷の上からワイピオ渓谷に下りるには、橋のない川を渡らないといけないので四輪駆動の車が必要である。水位が上がると四輪駆動でも渡れないので、タロ芋
農家は、常に空模様や滝の水量を見て、川の水位を予測している。モック・チュウ家も、川の水位が上がって渡れない時は、畑の小屋に泊まるという。
■ポイ
タロ芋は、苗を植えてから一年から15か月で収穫出来る。収穫したい時期に合わせて苗を植え、収穫時期をずらして一年中収穫することも可能。
収穫は、水田下で大きくなったタロ芋を葉ごと抜き、ポイにする芋と、芋が少し付いた茎を切り離し、それを次の苗として植える。
タロ芋の種類は、300種類程あるが、モック・チュウ家では、ハワイに昔からあるレフア、モイ、アピイという伝統種のタロ芋を耕作し、収穫は親戚一同総
出でするのが、代々の習わし。
その芋を、四代目の家の台所を改装してポイ工場にした所に持ち込み、二度洗いする。
ポイ作りは週二回、家族四人で朝7時から始める。ポイを作る蒸し器や皮剥き機などは、どれも溶接工だったジェイソンさんが造ったものである。
洗ったタロ芋を、蒸し器で蒸し、冷ました後、皮剥き機で皮を剥き、機械の剥き残しを、丁寧に手で剥く。
それを潰し機から絞り出すと、糊状のポイが出て来るようになっている。主な作業は機械でしているが、ポイの堅さは、少しずつ水を混ぜて手の感触で確かめ
ている。
出来たポイは、一つずつ手作業で袋詰めにし製品となる。モック・チュウ家のポイは、〈モクワイ・ピコ・ポイ〉という名前。ピコは、ハワイ語で、〈おへ
そ、真ん中、中心〉という意味。モクワイは地名で、モック・チュウ家の畑のある場所。つまり、〈モクワイ地区の真ん中(で採れた)ポイ〉という意味。
家族四人で毎週1000ポンド程のポイを作り、10ポンド袋と2ポンド袋の2種類作っている。10ポンド袋は、主にルアウや業務用。
ちなみに、タロ芋は、アジア、太平洋やカリブ海諸島、アフリカなどで耕作されているが、ポイにして食べるのはハワイだけである。
日本の伝統食の納豆は、他の民族には敬遠されがちだが、ポイもハワイアンやカマアイナ(古参者)以外には受け入れにくいかもしれない。納豆のように臭い
わけではないが、紫がかった灰色をしており、糊状で、味も淡白。
古代、ポイはコアの木で作ったボールに入れられ、指ですくって食べるのが正式の食べ方だった。近年では、消化がいいため離乳食としても食べられる。
■市場で販売
モック・チュウ家では、ポイを店に卸さず、自分たちで市場で売っている。その理由をカナニさんは次のように説明する。
「最近ポイは、とても高い主食になっています。でも、値段が高くなる原因があるのです。タロ芋の病気や害虫が増え、以前と同量のタロ芋でも、腐ったり使
えない部分が多く、出来るポイの量が減っています。同量のポイを作るには、前より沢山タロ芋が要ります。
私たちは、それでも出来るだけ値段を抑えようとしています。4年前までは、1ポンド2ドル50セントで売っていましたが、採算が合わないので3ドルに
し、今は1ポンド4ドルですが、それでもハワイ島で一番安いです。
10年前までは、タロ芋は80ポンド当り10ドル程で取引されていました。ウチは昨年まで、タロ芋を仕入れている農家に、80ポンド当り50ドル払って
いましたが、今年から55ドル払っています。
ウチはタロ芋耕作もしているので、農作業の大変さがよく分かっています。タロ芋農家が無かったら、ウチはポイが出来ませんから、5ドルの値上げは、我々
の感謝の気持ちです。
ポイを店に卸すと、仲介料の分高くなります。私たちは、出来るだけ安く皆にポイを食べてもらいたいので、自分たちでコナやコハラの市場で売っています。
ホノカアからそこまで行くだけでも時間がかかり大変ですが、お客さんの顔を見て反応を聞くことも大事だし、タロ芋耕作からポイ生産販売の過程の中で、販
売が一番楽しい仕事です。
ウチのポイを買う人は、みんな長い付き合いのお得意様なので、もう親戚のような感じです。誰もが、ウチのポイは濃厚で美味しいと言ってくれるので、嬉し
いし、やりがいがあります。
タロ芋耕作に興味がある人もいるので、色々説明したり、トーク・ストーリー(世間話)したりするのも楽しいです」
■仕事の分担
モック・チュウ家では、曜日により誰が何をするかの仕事分担が決められている。主に三代目夫婦が、畑仕事を中心にし、四代目夫婦が、市場でポイを売り、
四人でポイを作っている。
月曜日は、三代目夫婦は畑仕事。四代目夫婦は、タロ芋を蒸す準備をする。
火曜日は、家族四人でポイ作り。
水曜日は、昨日作ったポイを、四代目夫婦がコナの市場で売る。三代目夫婦は畑仕事。
木曜日は、基本的には休みだが、四代目夫婦は、昼からタロ芋を蒸す準備をする。
金曜日は、家族四人でポイ作り。
土曜日は、四代目夫婦がコハラの市場でポイを売り、アルバータさんがワイメアの市場でポイを売る。
日曜日は、三代目夫婦とカラエさんは畑仕事。
基本的に、三代目夫婦とカラエさんは、空いた時間は畑仕事をするので、一週間殆ど毎日仕事をしている。
■魂の食べ物
日本人にとって米が〈食の要〉であるように、タロ芋やポイは、ハワイアンにとって、単なる食べ物ではない。ハワイ文化の心髄や魂に近いものである。
近年ハワイでも欧米の食べ物が溢れているが、このハワイ特有の伝統食を見直そうという動きもあり、最近ポイは、ハワイの〈スローフード〉に認められた。
〈スローフード〉とは、ハンバーガーやフレンチフライなどの簡易に食べられる画一化した〈ファーストフード〉に対して付けられた名前で、ゆっくりとくつ
ろいで食べるのが相応しい伝統食という意味。
四代目夫婦は、昨年イタリアで行われた〈世界スローフード会議〉に、ハワイの代表として参加し、ポイを世界に広げるアピールをした。
現在、ポイは、需要に対して供給が追いつかず、買いたくても買えない人もいる状態である。カラエさんは、ポイは新鮮なものが美味しいというが、ハワイ島
でも、隣島から空輸された、時間の経った高いポイを買わないといけないという。
新鮮で美味しいポイを手に入れるには、睡眠時間を多少削る覚悟もいる。〈モクワイ・ピコ・ポイ〉を買うには、早起きして水曜日にコナのファーマーズ・
マーケットに行くか、土曜日にコハラかワイメアのファーマーズ・マーケットに行くことである。
通常朝八時から売り始めるが、売り切れ次第、店を閉めるので、早く行った方が確実。美味しいものを手に入れるには、多少の骨折りも必要である。
市場には、新鮮で珍しい物が沢山あるので、万が一ポイが売り切れでも早起きの価値は充分あり。
■モクワイ・ピコ・ポイ/Mokuwai Piko Poi
〈電話〉808・775・0815
Acknowledgements:
Hawaii Tourism Japan/ Yumi Ozaki/
Big Island
Visitors
Bureau/ Margo Mau Bunnell/ The Fairmont Orchid/ Aven
Wright-McIntosh/
Hapuna Beach Prince Hotel/ Catherine Tarleton/ PacRim
Marketing
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