Made in Hawaii <Cacao/Chocolate>

 

By Yurie Sakakibara (East West Journal) 榊原百合惠

 

 

 マヤ文明で知られるマヤ人は、西暦600年頃からメキシコのユカタン半島でカカオを耕作していたといわれる。メキシコ神話によると、カカオ飲料は、パ

ラダイスの神々によって飲まれ、カカオ豆は、大気の神様の恵みとして人間に与えられたという。カカオを飲むと知恵や力が授かると信じられ、貴族の飲み物

であり、カカオ豆は貨幣としての役割もしていた。

 「世界ココア基金」の発表によると、カカオは、世界で毎年約300万トン生産され、過去100年間、カカオの需要は毎年3%ずつ伸びている。カカオ総

生産の70%は西アフリカで生産され、残りの30%は、中南米、東南アジアなど、赤道に近い国々で生産されている。最近ハワイもカカオ生産に加わり、ハ

ワイ島やオアフ島でカカオが耕作されている。

 ハワイは、アメリカで唯一カカオが生育する土地だが、アメリカで唯一、アメリカ産カカオ豆だけを使ったチョコレートを作っているハワイ島コナの「オリ

ジナル・ハワイアン・チョコレート・ファクトリー/The Original Hawaiian Chocolate 

Factory」のカカオ農園と工場を訪ね、ボブ・クーパー社長に話を聞いた。

 

 

 

■ひょんなことからチョコレート作り

 

 ノースカロライナ州でカントリークラブのマネージャーをしていたボブ・クーパーさんは、何度かハワイにバケーションで来るたびに、引退してハワイへ住

むことを考えるようになり、1997年、ハワイ島コナに6エーカーの農場付の住宅を購入した。農園には、既にコーヒー、マカデミアナッツ、カカオの木が

植えられており、敷地内には、カビたカカオ豆の入った袋が放置されていた。それまで農業には全く縁がなく、どうやってカカオからチョコレートが出来るの

かさえ知らなかったクーパーさんだが、農園のカカオの木に実が成っているのを見て感激し、その実からなんとかチョコレートが出来ないものかと、試行錯誤

を始めた。

 ハワイで引退するつもりだったクーパーさんだが、カカオ生産に夢を膨らませ、1998年に、ケアアウにあった14エーカーのカカオ農園の経営を引き継

いだ。1999年には、ハワイ州企業経済開発観光局から25万ドルのローンを得て、「オリジナル・ハワイアン・チョコレート・ファクトリー」を設立し

た。クーパーさんは、フロリダ州のチョコレート・コンサルタントに相談したところ、「ハワイ産のカカオ豆と安い外国産のカカオ豆を混ぜれば、ハワイでも

チョコレート生産が出来る」と言われたという。クーパーさんは、それでは、ほんの僅かしかコナ産のコーヒーが入っていないのに「コナ・コーヒー」と称し

ているコーヒーと変わらないと、プロのアドバイスを受け入れなかった。

 

■生粋のハワイ産チョコレートへのこだわり

   

 ハワイ産のカカオ豆だけで作ったチョコレートを作ることにこだわったクーパーさんは、更なる試行錯誤を重ね、2000921日、初めて生粋のハワ

イ産チョコレートが生まれた。クーパーさんは、「チョコレートは世界中で作られていますが、大部分のチョコレート会社は、カカオ豆を外国から輸入して

チョコレートを作っていて、カカオ農園まであるチョコレート会社は殆どありません。ハワイには、カカオ農園はありますが、チョコレート工場まであるとこ

ろは今のところウチだけです。当社は、実際に農園で育てたカカオの木からチョコレートを作っています。

 殆どのチョコレートは、エクアドルなどの中南米で採れたカカオ豆を数種類ブレンドして作られていますが、当社のチョコレートは、ウチの農園とハワイ島

のカカオ農園で採れたカカオ豆だけを使ってチョコレートを作っています。多分世界で一番小さなチョコレート生産会社ですが、アメリカ唯一のアメリカ産カ

カオ豆だけを使って作るチョコレート会社です。砂糖きびやコーヒー、パイナップルを生産するには広大な土地が必要ですが、作付け面積の割には利潤があり

ません。当社は、かつての砂糖耕地のような広大なカカオ農園はありませんが、ハワイ島の65のカカオ農園からカカオ豆を買っています。殆どがコナ、キャ

プテンクック地区の農園ですが、ヒロやパハラ、カウにもカカオ農園があります。強い風はカカオの木によくないので、ハマクア地区やコハラ地区ではカカオ

の木は育ちにくいです」という。

     

■期待されるカカオ栽培

 

 クーパーさんは、カカオは、ハワイの産物として伸びる可能性があり、将来コーヒー農園よりカカオ農園の方が増えるかもしれないといい、その理由を次の

ように説明する。「ハワイの広大な砂糖耕地の跡地は、小規模多角化に移行しつつあり、カカオもハワイのすきま農業の一つとして定着しました。かつての砂

糖プランテーションのように、独占企業的な農業の仕方だと、会社に利潤があっても労働者に還元されることはあまりありません。

 当社は、利潤を皆で共有する方針ですから、カカオ豆を購入している農園に純益の10%を還元しています。地域を大切にすれば、お金は地元ハワイに留ま

ると思います。コーヒー生産は、労力がかかる割には儲かりません。コナ地区のコーヒー農園主が、『コーヒー生産では生活出来ない』と言って、最近何軒も

本土に引っ越しています。カカオは、コーヒー栽培より数倍労力がかかりますが、利潤はいいので、コーヒーよりカカオを栽培した方が効率的です」

     

■カカオの木

 

 あおぎり科に属するカカオの木は、学名をTeobroma 

Cacaoといい、「テオブロマ」は、ギリシャ語で〈神様の食べ物〉という意味を持つ。カカオは、赤道の南北緯度20度以内、年間平均気温27度C以上

の高温多湿の所に生育する。木の高さは、7メートルから10メートル。幹の太さは10センチから20センチ。日陰を好み、大きな木陰の下で耕作する。大

事に耕作すれば、100年近くカカオ豆が収穫出来るという。

 カカオの木は、大きく分けて3種類あり、耕作し易いため、市場の約85%を占めるのが「フォラステロ種(Forastero)」。香りが強く、実は熟

すと黄色になり、中のカカオ豆の果肉は紫色で、主に西アフリカと東南アジアで耕作されている。病害虫に弱く、耕作が難しいため耕作率は、全体の約13

と低いが、独特の香りがあり、最高のカカオだと言われるのが「クリオロ種(Criollo)」。実は熟すと赤や黄色になり、カカオ豆の果肉は白く、主に

中南米で耕作されている。

 カリブ海のトリニダッド島では、17世紀後半に「クリオロ種」のカカオを耕作していたが、ハリケーンで全滅したので、次に「フォラステロ種」の耕作を

始めた。実は、全滅したと思われた「クリオロ種」が僅かに生き残っており、「フォラステロ種」と「クリオロ種」の自然交配種である「トリニタリオ種

Trinitario)」が生まれた。「トリニタリオ種」は、主にトリニダッド島に生育しているが、自然交配種ゆえに品質にばらつきがある。同じ種類

のカカオでも、産地や土壌、気候、カカオ豆の乾燥や醗酵の仕方の違いにより、味に違いが生まれる。

 クーパーさんは、「当社では、かつてはフォラステロ種だけを生産していましたが、最近クリオロ種の生産も始めたので、その内クリオロ種のチョコレート

も作る予定です。あるデータによると、世界人口の約80%がチョコレートを食べています。食べない20%の人は、食べると頭痛がするとか、病気やダイ

エットのため、食べないというのが理由です。チョコレートは、殆どの人が食べる人気商品ですから、カカオは市場が確保された、耕作がいのある作物です」

という。

    

■カカオ豆からチョコレートを作る過程

 

 クーパーさんに、農園を案内してもらいながら、カカオの実からチョコレートを作る過程を説明してもらった。カカオの実は、パパイヤの実のように、木の

幹に直接成っている。カカオの花は、白くて小さい可憐な花で、花の側には、3センチ程の実もすでに成っている。これが熟すと、長さ20センチ程のラグ

ビー型の実になる。

 熟した実に切れ目を入れて、半分に割ると、中には白いネバネバしたパルプ(Pulp)に包まれたカカオ豆が詰まっている。カカオの実は、一つずつ手で

切り、中の実を出す。カカオ豆の周りのパルプは甘いので、その部分を食べるために実を買う人も中にはいるという。

 

〈醗酵/Fermenting

 パルプの付いたカカオ豆は、屋外にある木箱に入れて、6日間醗酵させる。

〈乾燥/Drying

 カカオ豆の55%は水分なので、天日で乾かし、3週間から4週間で水分を7%に減らす。この水分7%のカカオ豆は、7年間保存することが出来る。

 

 クーパーさんは、「大量生産をしているチョコレート会社は、せいぜい6か月くらいしか寝かせませんが、ウチでは2年間寝かせています。そうすることで

芳醇なフレーバーが生まれます。殆どのチョコレート会社は、乾燥したカカオ豆を買いますが、そうすると乾燥の仕方の違いで、フレーバーにばらつきが出来

てしまいます。ですから当社では、パルプが付いた状態のカカオ豆を他の農園から買っています。そうすることで、当社の基準に合った醗酵や乾燥をさせるこ

とが出来ます」と説明する。

 

     ○

 

 水分7%になったカカオ豆は、住宅を改造した工場に運ばれる。クーパーさんは、チョコレート会社を始めるのに一番困ったのは、チョコレートを作る機械

が、どれも大企業向きに作られているので、家内工業的な工場には、大きすぎて、高すぎたという。彼は、色々工夫を重ね、コーヒー焙煎機やエクササイズマ

シーンのトレッドミルなどを改良して作った機械に、ガムテープをフル活用し、次の行程を行っている。(ちなみにクーパーさんは、ご自身の創意工夫にかな

りご満悦の様子)

 

〈選別/Cleaning

 悪い豆やゴミを取り除き、品質の良い豆だけにする。

〈焙煎/Roasting

 豆を煎ってカカオ豆特有の味を引き出す。

〈分離/Winnowing

 豆を砕き、殻を取り除く。殻が取り除かれたものは、カカオ・ニブス(Cacao Nibs)と呼ぶ。

 殻は、花壇にばらまくと、チョコレートの香りのする花が咲くので、殻の需要もあるという。

〈精錬/Conching

 コンチェ・レファイナーという機械で、カカオ・ニブスをすり潰し、ペースト状になったものをカカオマスという。長時間かけてカカオマスを滑らかになる

まで練り上げ、チョコレートの香りを最大限に引き出す。

 滑らかになったカカオマスに、砂糖、ミルク、バニラエッセンス、ココアバター(カカオ・ニブスから搾油したカカオ豆の脂肪分)などを、作るチョコレー

トの種類により分量を加減して混ぜ合わせる。よくかき混ざったら、レシチンを加え、更に練り上げる。

〈調温/Tempering

 チョコレートの温度を調節して、含まれているココアバターを安定した結晶にし、液体状のチョコレートにする。

〈充填/Molder

 充分滑らかになった液体状のチョコレートを一つずつ型に流し込み、振動を加えて気泡を取り除く。

〈冷却/Cooling

 冷却室でチョコレートを冷やして固める。

 ココアバターや砂糖などが分離して、結晶が均一にならないことをブルーミング(Blooming)と呼び、商品にならないが、ブルーミングした場合

は、もう一度溶かしてやり直す。

〈型抜き/Demolder

 チョコレートが冷えて固まったら、一つずつ手で型からチョコレートをはがして包装する。

 丁寧に手作りされたチョコレートなので、ハワイだけでなく本土のシェフからも注文があり、大部分をレストランに卸しているという。

 

      ○

 

 カカオは甘いと思われがちだが、実は苦い。甘いのは砂糖やミルクなどを加えられたチョコレート。

 チョコレートは、基本的に3種類あり、カカオ含有率が高いもの(50%〜70%以上)は、ビターチョコレート。

 カカオ含有率が低く(約30%)、ミルクが加えられたものは、ミルクチョコレート。

 カカオを全く含まず、ココアバターだけで作られたものは、ホワイトチョコレートという。

 ココアは、カカオ・ニブスを搾油し、ココアバターを除いたものを、砕いて粉状にしたもの。

 

      ○

 

 カカオには、ガンや動脈硬化などの原因と言われる活性酸素を抑える効果のあるカカオポリフェノールが含まれている。この他にもビタミンA、B1、C、

D、Eなどに加え、マグネシウム、カリウム、リンなどのミネラルも豊富に含まれている。だからと言ってミルクチョコレートを大量に食べると、糖分や脂肪

分も沢山摂ってしまうので、一番いいのはカカオ・ニブスを食べることだという。カカオ・ニブスは、自然食品店などで買えるが、チョコレートとは程遠い苦

い味がするので、健康食品の域を出ない。やはり多少甘みのあるビターチョコレートを少しだけ食べることをお勧めする。

 

Acknowledgements: Hawaii Tourism Japan/Big Island Visitors 

Bureau/PacRim Marketing Group, Inc/Hilton Waikoloa Village/Dollar Rent 

A Car/ Ken Love